黒いハンカチ

黒いハンカチ (創元推理文庫)

黒いハンカチ (創元推理文庫)

 ネットでたまたま見かけた直後に本屋で目に入り、何となくピンときたので購入。これは面白いかつまんないかで言ったらつまんないかもしれないが、好きか嫌いかで言ったら間違いなく好き(笑)。
 普段は昼寝を愛する女子高の教師、だが眼鏡をかけると名探偵に!というベッタベタな設定のニシ・アズマ女史が異様にあっさり事件を解決していく連作短篇。これは推理小説として読んだら多分思いっきり肩透かし食います。だって別に高度なトリックなんか全く出てこないし、謎が出てきてもあっという間にアズマさんが解決しちゃう(時には謎が出てきた直後にもう解決、みたいなのもある)のです。アズマさんほぼ直感で「なんか怪しいなー」と思って犯人を観察して、みんなが事件が起こったのを知った時にはどっかへ消えてたかと思いきやいきなり「あーもう解決したわよー」みたいな風に戻ってくるんだもんよ(笑)。これはこれである意味面白い。
 それより俺はこのキャラと雰囲気、文章だけで充分楽しめた。普通にしてればそれなりにかわいいのだが肝心の眼鏡が似合わない上に伊達、っていう時点でもうアズマさんファンです(笑)。各短篇の冒頭部で「小柄で愛嬌のある女性」が出てくる瞬間、「あ、アズマさんだ」とわかってニヤニヤする(笑)。あと人物の説明とか本筋の事件とはそんなに関係ないのに各篇の前半を占めてたりするとことか、犯人の動機とかをちらっとほのめかすくせにあんまり言いたくないからって言わずじまいのとことか、ことごとく推理主眼じゃなくて笑える。これは推理をスパイスにした日常小説として読むべきだなあと思います。そのくせ普通に人は死んでるんだけど。
 約50年前に書かれたものなので、口調とか時代がやはりレトロでいいなあ。変に優雅で(笑)。元々女性誌に連載されてたことも大いに関係してるだろうけどね。モロに推理推理してないとこも。俺はこの作者の小沼丹がどういう作家かはよく知らないんだけど、書き味とか好きな気がするのでまた読んでみたいなあ。
 この作品、ちょっとアレンジしてこうの史代さんか高野文子さんあたりの人に漫画化してもらいたいなあ、と読んでて妄想。