幻想の画廊から

幻想の画廊から―渋澤龍彦コレクション   河出文庫

幻想の画廊から―渋澤龍彦コレクション   河出文庫

 モロー展に行った時にミュージアムショップで本を眺めていたら、丁度観ていたモローに加え、古本屋で図録を見かけて気になっていたゾンネンシュターンなどについても書かれているこの本を見つけ、これはタイミングが良いというわけで購入。表紙にもなっているアルチンボルドから、エルンストやダリなどのシュルレアリスト、奇妙な彫像の並ぶボマルツォの森から郵便夫シュヴァルの城まで、様々なヨーロッパの怪奇幻想を思うさま語った評論集っす。
 何というか、選曲のスタイルがハッキリしているDJを聴いているような気分になった。ゴスしかかけない、みたいな(笑)。逆にそのジャンルならこの人のプレイを聴けば間違いない、というように、夜の世界に属する芸術に関しては非常に優れたナビゲーターになってくれる。彼の著作から辿っていくうちに幻想美術のマップが頭の中に出来上がりそう。そういう意味では、とても良い教科書になりうる本だと思う。シュルレアリスムだとかパラノイアックなアートだとかは知ってるようで意外と知らなかったので、好き嫌いは別としてもうちょっと色々見ておきたいなあ。辿るルートとしては澁澤経由ってのはちょっとコテコテ過ぎるし多少若気の至りな感もありそうけど(笑)。
 紹介されてる中でも特にびびったのはルイス・ウェインというイラストレーターの作品。この人はかわいい猫とかのイラストを書いて人気を博した通俗画家だったのだけど、57歳で分裂症の症状が出てきてから、その猫の絵にだんだん変化が生じてくる。最初は普通にイラスト風にデフォルメされたシャム猫なんだけど、次第に線が尖って禍々しさを増していき、そこから一気に細密画のようなタッチの異常に細かい模様で構成された猫的な図像に変わって、最終的にはサイケデリックな模様の雪の結晶が執拗に積み上げられたような抽象化された猫になっていく。その過程を並べてみるとマジ恐いっす。図がどんどん機械的純化を見せるのがオソロシイ。
 もし澁澤がまだ生きていたら、どのような人たちについて書いただろう?アニメーションに興味を示しそうな気もするね。昨日観たシュヴァンクマイエルは絶対好きだろうな(笑)。