太陽の塔
- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/12/19
- メディア: 単行本
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より正確に言えば、そういう性質の持ち主で「あろうとする」京大生の生活と意見、みたいなお話です。多少ネタバレになってしまうんですけど、彼のこういう意識には俗に言うモテ/非モテみたいな構図が絡んでいまして。女の子とわっしょいわっしょいやる人々の生息域から除外されてしまった場合どういう反応をとるか、というスタンスには大きくわけて二つあるかと思います。モテ側に行こうとがんばるか、非モテのほうに独自の価値を見出すか。この小説の主人公(とその友人)は思いっ切り後者。クリスマスまでに彼女を作るために合コンにいそしむのではなく、クリスマスにはしゃぐやつらは資本主義に踊らされている云々とか考えてクリスマス撲滅を図る類のナイスガイたちです。そんで主人公は、「何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。なぜなら、私が間違っているはずがないからだ」という根本原理のもとに日々自らの立ち位置を確かめつつルサンチマンをたぎらせているわけです。
んで、この小説のひとつの中心として、太陽の塔が大好きな主人公の元彼女がいるんですが、主人公は彼女の生態の「研究」の名の下に彼女の行動を追ったりしてるわけです。まあ外から見れば完全にストーカーなんですが(笑)、彼自身そういうツッコミは事前に想定していて、自分というすばらしい人間を振った彼女は恋愛対象ではなくもはやひとつの謎でありそれを研究したいと思うのは知的人間として当然であるのでストーカー犯罪とは根本的に異なるだとかのたまうわけです。こういうある種ジャイアニズムみたいな彼の思想と発言が笑えるんですけど、読むうちにこの語り口が「強がってやっている」語りに見えてきて、しかも語り手自身それを自覚しているっぽいのがわかってくるんですね。それがこの作品の軸に結びついてくる。だからこれはプロットじゃなくて文体から攻めた恋愛小説とも読めるんじゃないかと思います。恋愛がらみの切なさにも色々あると思いますが、それを強がりの裏に隠す主人公の、見栄っ張りなんだけど切実な自意識が、個人的にすごく好きです。
でもやっぱり笑える作品。語り口は前述したとおりだけど、彼の周りのキャラも変なのばっかりでいい感じです。主人公の友人の、非モテ男汁軍団の総帥的存在である飾磨、超絶剛毛巨体オタクの高藪、内に秘めた怨念とルサンチマンの塊である井戸の3人がやっぱ好き。こういう4人組の集まりって、なんというか「こういう友達関係ってあるよなあ」と思ってしまうし、その妙なリアリティが自分には面白かったですね。リアリティというならば、これは京都の大学生が読むともっと面白いんじゃないかと思います。結構ご当地トークも出てくるので。
んでこれがなんで日本ファンタジーノベルなのかというと、途中でちょっと現実を離れる部分があるからなんですが、個人的にはここをもうちょっと書いてほしかった気がします。そう思うのも、この部分がなくても十分面白いじゃんと思ったからではあるんですが。