ヤン・シュヴァンクマイエルの世界パート2

 今日観たのは「J.S.バッハ‐G線上の幻想」「シュワルツワルト氏とエドガー氏の最後のトリック」「石のゲーム」「エトセトラ」「庭園」「ドン・ファン」。全体としては一昨日観たプログラムの方が好みだったかな。でもやはり良いものもあった。
 「バッハ」は、曲に合わせて廃墟の壁などの映像を組み合わせた作品。オープニングの、おじさんがオルガンを弾き始めるとこまでは床のきしむ音とかが耳に心地よく響いたのだけど、いざ曲が始まるとそのパワーが強すぎてちょっときつかった(音量の問題ではないと思うけど)。映像もそこまで新鮮味のあるものではなかったかな。
 「シュワルツワルト氏〜」は非常に面白かった。二人のからくり人形が交互に芸を披露しあうという作品。最初のクレジットのシーンで、普通に人間が仮面をかぶるとこから始まるんだけど、劇が始まってからは彼らはからくり人形になっちゃうんよね(首取れたりするし)。ここでもまた人間が非生物になり、非生物が動き出すっていう逆転が起きてる。その辺の、人を機械的なものとして捉える彼の考えはどこから生まれたんだろね。こういうこと考え出すとデカルトとかが出てきそうで恐いのでやめますけど(笑)。でもまあそういう理屈はともかく、単純に見ていて楽しめる作品だった。
 「石のゲーム」は時計が3時間ごとに石を吐き出し、その石が様々に動くという映像。その動きが妙にエロティックなんよね。そこらに転がっててもおかしくない石ころにもそういう意味合いを持たせてしまうのはこの人の性なんでしょうか。石で人の形を作るシーンがあるけど、その人形にもきっちりナニがついてるし(笑)。
 「エトセトラ」は紙の上をセロファンが動き回るような映像(フロッタージュというらしい)で構成された3つの短篇。これはまず映像自体が面白かったなあ。動く古い絵本を見ているような気分になった。3つの中では第二話の「鞭」が一番好き。最初変化に気付かんかったよ。
 この回の目玉は個人的には「庭園」だったな。これはアニメーションではなく普通にモノクロの短篇映画。20年ぶりに会う友人の家に招かれた男がそこで見たものは…っていうような話。最初すごく普通の映画として始まるから、まさかこのまま進むのかなーと思ってたら、家に着いた時のシーンで驚きつつもニヤリ。なるほどね。そしてこれは「社会主義体制の暗示」という意味があるとパンフに書いてあったのだけど、そう読むことも確かにできそう(実際これは国内では20年間上映禁止になっていたらしい)。「彼ら」は社会主義下の労働者の姿とそのまま重なるし、あのおっさんはそういう仕組みの上に立ちうまい汁を吸いつつも社会主義の理想を信じ込んで疑問を持たない人物として描かれている。その異常に気付きつつ、結局「彼ら」に加わることしか出来なかった主人公の姿に、やりきれないものを感じる。
 「ドン・ファン」は30分近くある人形劇。といっても人形から操り糸が伸びているのは見えるけど操る人の姿は全く出てこないので、人形が独立して動き回る人形劇。舞台(特に墓のシーンなど)が結構凝っているけど、時には実際にある場所で人形を動かして撮っていたりもするようなので、人形の大きさがどのくらいかわからなくなる。普通の人形の大きさなのか、それとも人間並みに巨大なのか。人形劇見てその辺の縮尺が狂ったのは初めてです(笑)。あと人形の固定された表情って滑稽にも不気味にも映るから、シュヴァンクマイエルの世界にぴったりな素材だなあと改めて思う。