アウラ・純な魂 他四篇

フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇 (岩波文庫)

フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇 (岩波文庫)

 読まなきゃいけないものが多い時ほど関係ないものを読みたくなります。というわけで積んでいたフエンテスの短篇集を読んだ。「チャック・モール」「生命線」「最後の恋」「女王人形」「純な魂」「アウラ」を収録。全体的によかったっす。文庫で手に入るラテンアメリカものはそんなにないけど、これってもう絶版だっけね?古本で買ったからわからん。
 「チャック・モール」は面白かった。チャック・モールってのはマヤ文明の雨の神で、ある男がこれの石像を買うがそれが次第に動き出して…っていう話。チャック・モールがあまり神様っぽくないというか、超然としてないのが好き。動き出す前まではゴシックホラーのように緩やかに異様さが増していくのに、動き出してフィリベルトを支配するようになり始めてからはなんかジャイアンみたいになる(笑)。
 同様に怪奇譚のような雰囲気を漂わす「女王人形」「アウラ」も特に好き。「女王人形」はグロテスクな真実を描き出す作品として、かなりうまく出来てるものである気がする。美しい過去を保存しようとするノスタルジーの虚飾、そして残酷なくらいその想定された過去と異なる現実、その両方の異様さが凝縮されている作品。「アウラ」も時間が止まっているような(あとがきを踏まえて言えば線形の時間軸の流れを外れたような)家の、匂ってくるような雰囲気が妙な妖しさを醸し出してていいなあと。あとがきに、彼の作品の中では時間が線状に進むものではなく円環的なものとして認識されていると書いてあってなるほどなあと思ったのだけど、特にこの作品集では室内が奇妙に熟成された閉塞感を持っていて、その中で時間が無限にループを繰り返しているような印象を受ける。永遠に腐り続けるような空間。
 「生命線」とかを読んでて特に思ったのだけど、文体が言い訳っぽいというか、自分に言い聞かせようとするようなふしがあるように思う。理想と現状の間にある葛藤を文体に落とし込んだようなところは「最後の恋」「純な魂」とかで見受けられたようにも感じるし。それはすなわち生と死、若さと老い、メキシコと外国などの葛藤の象徴でもあるのかなあ。
 この文庫、あとがきがなかなかに気合が入っていて、勉強になる。俺はこの作品が書かれた背景とか、メキシコの神話的な要素などについてはほっとんど何も知らずに読んだので、この解説でそのような重要なポイントを知って「なるほどなあ」と思うことしきり。逆にこうみっちりと語られてしまったおかげで、自分の読みがそっちに誘導されてしまった感もあるが。