ミルククローゼット

ミルククローゼット 1 (アフタヌーンKC)

ミルククローゼット 1 (アフタヌーンKC)

 一言で言えば、パラレルユニバース・異生物ものSF漫画。突然異世界にジャンプしてしまうという病気にかかった主人公はそちらの世界で瀕死の目に会うが、しっぽ族という生き物と共生して生き残り、同様に共生した子供たちと平行宇宙パトロールの任務につくが…っちゅうような話。多分物凄く好き嫌いが分かれる作品だと思う。かなり濃ゆいです。
 富沢ひとしはもうちょっとSFの文脈でしっかり評価されてもいいんじゃなかろかと思うんだが、どうにもそうならないというか、届くべき人のところに届いていないように感じる。それはキャラの絵柄が多分に影響してるからなんじゃないかという推論には、この表紙を見たら多くの方が納得してくださるんじゃないかと(笑)。まあそりゃね、俺もこれ載せるのちょっと躊躇したもの(笑)。
 でも、多分この絵柄じゃなきゃダメ。彼の作品が必然性と凄みを備えたグロテスクさを持っているのは、この絵柄で暴力を描くからってのがあると思う。それに、人物以外のクリーチャーの造形だとか各平行宇宙のヴィジョンだとかは、明らかに異形。前にブライアン・オールディス「地球の長い午後」を読んだけど、あの作品に出てくる生物を頭に描く時に使うような想像力が、かなり高いレベルで発揮されたらこういう造形が出来上がる気がする。荒廃したシュールな風景に関してはバラードとかに通じるものがありそうだ。こういう絵と、キャラの絵とのコントラストがすさまじい。そのくせ違和感ないのが不思議。1巻読んだ時は衝撃的だったなあ。2巻の途中辺りからストーリーが加速してきてそっちに比重が傾くけど(この世界に徐々に慣れていったのもある)。
 それにこの人は暴力の描写もうまい。異様に静かに描く時があるのが逆にオソロシイ。1巻で、異世界にワープした少年がカッパみたいな生き物にモリで刺される場面があるんだけど、その刺す瞬間のコマは、大ゴマで効果線引きまくりーの血ィ出まくり―のというような派手な書かれ方じゃない。左隅の小さいコマで、カメラを引いて彼らのシルエットだけを映し、効果線も一切無いままただ「サクッ」ていう擬音だけが描かれるっていう。なんかねー、こういう描写だと暴力に全く激情が感じられないから尚更背筋が寒くなる。
 話の内容は、ネタバレになるから書かないけど、結構複雑。何気に相当でかいスケールの話だし。そのでかいスケールがある意味個人レベルで完結を見るのが面白いが。しっかしこの作家さんはマジで業が深そうだなあ…(笑)。小手先じゃこれはできんし、そもそも誰もやろうともしないはず(笑)。