船を建てる

船を建てる 1 (ぶーけコミックス)

船を建てる 1 (ぶーけコミックス)

 コーヒーと煙草、という白黒のアシカを中心に据えた連作短篇漫画。10年位前の作品で、どうやら絶版っぽい。前から読んでみたかったのだけど、まさかプレミアついてたりすんのかなあとビクビクしてたら、まんだらけに行ったら普通に定価より安く売ってた(笑)。続巻を手に入れるのはいつになるやら。
 アシカとかアザラシとかの楕円形デフォルメ生き物が出てくると可愛げなほのぼの系ギャグか何かかと思われるかもしれないが、さにあらず。のんびりしてはいるんだけど、その通低音はそれこそコーヒーと煙草のような軽い苦みのあるペーソス。そのペーソスには、なくしてしまったもの、なくしてしまいそうなもの、なくなりつつあるものへの愛と憧憬がブレンドされている。絵は描線やら構図やら陰影やらかなりすっきりとコントラストがついたスタイリッシュな雰囲気だけど、それがこの舞台の「アメリカっぽいんだけどやっぱりどこでもない感じ」を強めてて、オサレかつノスタルジックな作品になっとります。
 この人は結構本好き、そしてその中でも特にブローティガンが大好きみたい、というか本人が自分でそう書いてた。作中の至るところにブローティガンをもじった言葉とかがあるし、そもそも全体の地面から浮いた雰囲気や上記のような印象はブローティガンに通じるところが多いなあと。そしてその好きなものを前面に押し出すところ、それをスタイリッシュに色付けするところは、時代もあるのかもしれんけどフリッパーズ・ギターを思い出した。そういうところが多少鼻につく感はありつつも、好きか嫌いかで言えばやっぱり好きな部類。
 しかしこのアシカ達が可愛いようで微妙に可愛くないのが面白いね(笑)。