プーシキン美術館展@東京都美術館

 というわけで、プーシキン。18日が最終日なので、何とか土日の前の平日に滑り込んだ。さっきも書いた通り、混んでたけど展示されてる作品が小さな版画なども含めて70点ほどと結構少なかったためか、人手の割にはまだゆっくり見られた気がする。全部通して見て1時間くらいかな。ただ、混んでることには変わりないし、土日はさらにすさまじいことになっているのが予想できるので、行く方は気合を入れていくことをおすすめします。
 出品作は主に、印象派から始まってフォーヴ、キュビスムあたりまでのフランス絵画。有名どころではルノワール、モネ、ドガセザンヌゴッホゴーギャンマティス、ルソー、ピカソなどが出品されてます。見られてよかった、と思う絵が結構あって、量の割に充実してました。おかげで我ながら感想が長い長い。
 まず「印象主義 モネ、ルノワールとその周辺」という部門。ルノワールのことを前より好きではなくなっている自分に気づく。何というかな、根本的な次元でどこか明るすぎるんだよなあ。世の中のいいところしか見ていない絵というか…まあルノワールの作品を網羅するほどじっくり見てはいないのでこう言い切ってはいけないかもしれないが。けど、モネは依然として好きだなあと感じた。対象に対して、すごくフラットな視点をもって臨んでいる気がしたので。それに、やっぱり「白い睡蓮」での水面の描写とかはすごいわー。水面に浮かぶ草は水平の面に浮かんでいるのに、水に映る風景は水の中に沈みこむような垂直のベクトルで描かれてて、えらく立体的。一つの画面に二つのベクトルが見事に共存している様にくらっとする。あとドガの「写真スタジオでポーズする踊り子」は、一見まともなのに見ているうちにどんどん何かがずれていくような感覚を覚えた。不思議。
 次は「セザンヌと新印象主義」。自分は未だにセザンヌは美術的に何がすごいのかよくわかっていないのだが、「池にかかる橋」にはびびった。言ってみりゃ林の中の池にかかる橋を描いただけの絵なのだけど、この橋がね。橋を抜きにして見ると全体が抽象画に見えるんだけど、この橋が一旦絵に組み込まれた途端その抽象画的な画面が一気に全部具象的に見えてくる。何だこりゃーと驚きました。シニャックとかの新印象主義の絵は、思いっきし点描点描なのでだんだんドット絵のように見えてくる。まさかこれらの間に影響関係なんかあったりはしないよなあ…(笑)。ポール=セザール・エルーの「白い服の婦人」は、モネの「日傘をさす女」をもっとはっきりと描いたような爽やかでちょっとリリカルな絵で、モチーフは画家自身の奥さんだとか。芸術的な深み云々に関しては特別引っかかるとこはないけど、こんな風に描いてもらえた奥さんは幸せだったろうなあと思った。
 続いて「象徴主義 ゴーギャンゴッホ」。まず展示されてたのはゴッホの「刑務所の中庭」だったのだが、混んでて残念ながらしっかり見られなかった。独特のうねるようなフォルムと、閉塞感がみなぎっている画面がパッと見では目についたな。でもここで何よりすごかったのはゴーギャンゴーギャンの絵をまともに見るのはいつ以来かわからんしひょっとしたら初めてかもしれないけど、これは参った。「彼女の名はヴァイルマティといった」「浅瀬(逃走)」の2作品が展示されていたのだけど、異様。何がどう異様なのかは自分でもわからないんだけど、言いようのない不安感と強く惹かれる気持ちが混ぜこぜになって、思わず立ちすくんだ。素材から感じるスピリチュアルな要素と先入観は抜きにして、この人の絵には多分何かが棲んでいる。その後のシャヴァンヌ「貧しき漁夫」やカリエールの絵も良かったな。好きな画家レオン・スピリアールトに通じるような孤独感があって。
 「ナビ派とアンティミスト」という部門では少し現実からずれた雰囲気の絵が展示されてた。ゴーギャンから影響を受けた一派と書いてあったが、どーにもその根本的なところは違っているようにしか思えん。上辺は似ているけど、この辺の絵からはゴーギャンに感じたような得体の知れなさは感じなかった。フェリックス=エドゥアール・ヴァロットンという人の「海港」という絵とボナールの「洗面台の鏡」は良かったけどむしろ先ほどの象徴主義の絵に近いような。
 次はメインとも言っていい、「マティスフォーヴィスム」。ここはなんといってもマティスの「金魚」でしょう。広告でもバンバン出てたけど、実物も良かったです。何がいいって、まず金魚(当たり前か)。中心にあるこの鮮やかな赤が絵全体もパシッと固めてる気がする。水面に映る金魚をちゃんと描いてるとこもいいなあ。しかし全体見ると結構不思議な配色だよなあ。鮮やかな色が中心以外にはあまりないのに、妙に色彩が忙しい。他に興味深かったのが、レオン・レーマンという人の「山脈」という絵。一応フォーヴの一派に最初参加してた人みたいだけど、途中から引っ込んでしまったらしい。それも絵を見ればなんか納得。印象派にしろフォーヴにしろ、ほぼ全て日中の光景を描いた絵で、画面が鮮やかな光で満ちていることが多いけど、この絵の風景は夜の寂しい山の風景。個人的には夜の中にも色彩はあると思うので印象派とかにそういう光景を多く描く人がいないのがちょっと寂しかったのだが、この人の絵を見てなんか嬉しくなった(笑)。どんな人なんだろう。
 長くなったけどそろそろ終盤、「フランス近代版画 マネからピカソまで」。ここはその名の通り色んな版画を集めた部門。版画だけあってサイズが小さく、混んでいてよく見えなかったが、素描っぽい雰囲気のものが多くてあまりピンとこず。ただ、ここでもゴーギャン木版画はヤバイ雰囲気を漂わせておりました。この展覧会の中では一人変なとこにずれてる気がする(笑)。あ、あと先ほども出てきたヴァロットンの「諍い」という版画はユーモラスで気に入った。
 んでラスト、「ピカソキュビスム」。ドラン、ルソー、ブラックや、ピカソの20世紀初頭の絵が展示されてた。ルソーの絵はやっぱり変。一見この世みたいなんだけど、微妙に別のロジックで動いてる世界。好きです。ピカソのは良かったけどピーンと何かが反応するほどではなかったな。