ひかりのまち

ひかりのまち [DVD]

ひかりのまち [DVD]

 マイケル・ウィンターボトム監督の、ロンドンに住むある家族を中心に据えた群像劇。個人的には、「ピンと来なかった」という印象と「なかなか染みた」という印象が半々くらいです。でもそれは作品の出来がいい悪いという評価軸ではなく、合う合わないの評価軸で見た際の印象なので、はまる人ははまるはず。
 んじゃあまずピンと来なかった理由から考えてみます。多分、描かれる人物が結構多かったせいで、物語の凝集力が少し散漫になっちゃったんじゃないかなと思ったのが大きい。基本軸は三姉妹とその恋人なのだけど、他にもその両親や、家出した弟、長女の息子なども大きく絡んでくる。三姉妹は三者三様な生き方をあらわしてるし、その周辺の人たちのエピソードももちろん必要なんだけど、もう少し描く対象を絞ってみてもよかったんじゃないかなと感じました。
 でも、終盤でそれらのエピソードが一つにまとまっていく様は、あざといっちゃあざといがなかなか感動的。結構救いの無い空気が作品全体を覆っているので、こういうまとめ方でいかれると結構染みてしまうわけですよ。この作品に出てくる人はことごとくみんな孤独で、家族だとか恋人だとかいう関係性のレッテルでは一応繋がっているんだけど、お互いを理解するコミュニケーションのためのバイパスはほとんど分断されてる。この物語の中では、最終的に何とか修復されるバイパスもある中で、さらにひどく壊れるものも少しだけどある。でも、どっちにしろ痛みは多かれ少なかれ残る。痛みの中に灯る微かな繋がりに結局すがりつかなきゃ生きていけない寂しさ、みたいなものがロンドンの夜に浮かぶ光を通して見えてくる。
 と持ち上げてみてまたそこにツッコミを入れてみる。正直、夜の中にまばらに浮かぶ光だとか、救いのなさから垣間見える希望だとか、結局そういうクリシェに安易にまとまってしまっているところはあるかもしれない。車窓から見える街灯だとか、遊園地で打ち上げられる花火だとか、そういういかにも切なさを誘うモチーフに頼りすぎな感あり。そういうものを見ればセンチメンタルな気分になるのはまあ当たり前っちゃ当たり前なわけで、逆にちょっとこれでノセられるわけにはいかんのうと天邪鬼な気持ちがむくむくと(笑)。
 そんなある意味コースの甘い直球のようなこの作品がそれでも力を持っている理由は、一人一人の孤独とか苦悩がしっかり血が通った形で描かれてるからかなと思います。下らんトレンディドラマに出てくるような、いかにも脚本のために用意された薄っぺらい駒ではなく、ちゃんとその孤独を生きている人間だという印象を抱かせてくれます。ドラマのために人物があるというよりは、人物があってドラマがある。それでいてドラマは結構練られている方なので、ある程度の水準は間違いなく越えている作品だと思います。
 最後に、タイトルについて。原題は「WONDERLAND」。「ひかりのまち」という邦題は、この映画を短い言葉で端的にあらわしているいいタイトルだと思うけど、もし観る際にはちゃんとこの原題の方を頭に入れておいてください。ある意味キーワードなので。