ビッグ・サーの南軍将軍
- 作者: リチャードブローティガン,Richard Brautigan,藤本和子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2005/11/01
- メディア: 文庫
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ブローティガンは文庫化されたものはとりあえず全部読んだわけだけど、その4作をものすごく乱暴に座標軸に並べるとしたら、左から右に「ビッグ・サー」「アメリカの鱒釣り」「愛のゆくえ」「西瓜糖の日々」という並びになるような気が、何となくしている。左側はユーモラスで、物語という括りも緩く、のんびりだらだら進んでいくけど、右に行くにつれてだんだん死の気配が濃くなり、物語の展開も抑揚が強くなっていくように感じる。幻想の入り込む度合も増していくかな。というわけでこの「ビッグ・サー」はこの4作の中では一番ユーモラスかつ現実的(それでも充分非現実的だけど)な作品かと。
話としては、歯無しの若者リー・メロンと仲良くなった主人公ジェシーの過ごす日々の様子をつらつら描いたというくらいで、大きなプロットはそんなに無し。全体が細かい章に分けられて、その一章一章で彼らの生活の一コマが語られる。まあ基本的には酒を飲んでぐだぐだしているだけなんだけど(笑)、語り口が相変わらず洒落ているし、その内容も結構アホらしいのが多くて何気に笑えました。個人的には、小屋の周りにいる蛙を黙らせるエピソードとか、ガソリンを盗みにきたガキンチョをいじめるとことかが好きです。特に蛙のやつは情景を想像するとあまりにマヌケで素敵(笑)。
あとラストがカッコいいっすね。まあこれは実際に読んで確かめてもらった方がいいけど。今となってはこういう形のラストはそこまで珍しくはない気がするけど、それでもかっこよく映るのはやっぱりブローティガンの言語センスのなせる技かと。
最近はこういう小説を解釈するのが億劫というか、解釈せんでも充分楽しんでいるのであまり御託をこねる気にならんのですが、藤本和子氏によるあとがきはこの小説の持つ意味合いを考える一助になった気がします。100年遅れで結末のない戦いを蛙などを相手に続けるリー・メロン。ドン・キホーテ的とも言えそうなこのキャラクターを通してブローティガンが茶化し皮肉ったものは、なんだろう。アメリカと言ってしまえばそれまでなのですが。同じように、オーガスタス・メロンが南軍将軍ではなかったこと、そしてリーとジェシーは南軍将軍だと信じたことも、皮肉交じりのノスタルジアと決めつけるのは早計かな。かといってそこから先に踏み込める力量が残念ながら自分には無いけど。考え出すとなかなか奥行きのある作品です。