象られた力

象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)

象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)

 感想書き、1週間遅れがデフォルトになりつつあります。いかんね。
 長い潜伏期間を経て「グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ」で大復活を果たしたSF作家飛浩隆の、かつて発表した作品に改稿を加えたものを集めた中・短篇集。「デュオ」「呪界のほとり」「夜と泥の」「象られた力」を収録。自分は「グラン・ヴァカンス」でこの人を知っただいぶ新参者のファンなのですけど、これを読んで、本当に復活してくれてよかったと改めて感じました。
 まず、「デュオ」が最高でした。めっちゃめちゃ面白かった。これはSFというよりはサスペンスに近いかも。(ほぼ)現代を舞台にした、双子の天才ピアニストと調律師の物語。音楽を文字で書くというのはかなり難しいことだけど、この作品では端整な筆致と練られたプロットがそれぞれ音色とダイナミクスになって、一つの楽曲が作中として奏でられているような印象さえ受けます。鮮やか。
 「呪界のほとり」はだいぶコミカルで、こういう作品も書いてたのかと驚きました。竜と一緒に呪界と呼ばれる空間を旅をする男が、敵から逃亡中に呪界を抜け出てしまうが、そこで一人の老人に会い…というような話。続編をにおわせる終わり方だったので、これはシリーズものなのかなと思っていたら、その構想もあったらしいけど結局これのみで終わってしまったらしい。いつか続きを読んでみたいもんです。というか<廃園の天使>シリーズがそうならないことを切に願います(笑)。
 「夜と泥の」は、ある惑星で起こる特殊な自然現象についての話。やはりリリカルで繊細なイメージの裏に破滅を忍び込ませるのがうまい作家さんだなあと。それは彼の作品全般に言えることかも。透き通った結晶のような美しさと、全てを飲み込む嵐のような破滅が、お互いを強調するように働き合うことが多いように思います。深く浸ってしまったら破滅するのはわかっているのだけれど近寄って触れずにはいられない、罠のような悪魔的な美しさは、彼の作品全体を覆うモチーフの一つではないかと。
 それはラストの「象られた力」でも言えると思います。謎の消失を遂げた惑星の図形言語に隠された「見えない図形」を探すよう依頼されたイコノグラファーを中心に、「かたち」と「ちから」の相克(背表紙より引用)を描いた作品。例えば魔方陣のように、図形が何かしらの力を持っているように感じることがあると思いますが、この小説はその感覚を最大限に拡大したような作品です。この「かたち」と「ちから」の相克は、そのまま「美しさ」と「破滅」の相克とパラレルになっているのではないかと。それとこの作品はしまいにフィクション性についてまで話が転換するので、考え出すとなかなか歯ごたえのありそうな作品です。というかそう書いてる自分自身全然考えがまとまっていないんですけどね(笑)。
 ここまで書いてきて、彼の作品の内容を説明する難しさ、自分の描写力のなさを実感しています(SF全般に言えることかもしれませんが)。描写力の無さ以上に、下手に描写してはいけないような気も何となくしています。結局とりあえず読んでみてくださいとしか言えない(笑)。