夏への扉

夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))

夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))

 SFの基本のキ、ということでこないだ読みました。もはや古典であるせいか、意外性はそんなになかったけど、それを抜きにしてもプロットがしっかりしていて面白かった。親友だった仕事のパートナーに発明も彼女も取られた男が飼い猫といっしょにコールドスリープに入ろうとするのだが…というお話です。あまり色々と感想をいう気にもならないので短めに。でもネタバレ含むので畳みます。
 タイムパラドックスものは読んでいて頭がこんがらがってくるんですけど、これはそんなにこんがらがらずに読めました。前に読んだ、同じく彼の作品である「All You Zombies」(邦題は「輪廻の蛇」だったっけ?)がさんざんこのパラドックスをいじり倒すことで成り立ってる作品だった分、覚悟ができてたんですかね(笑)。しかし彼は、同じ時間に同じ人間が二人いる、というパラドックス自体に疑問を呈するよりは、それをプロットに活かすようにしているんでしょうか。いずれ疑問を呈するスタンスのタイムパラドックスものも読んでみたいです。ドッペルゲンガーだと思ってたら実は…みたいな話とかありそうだなあ。
 そしてこの話を語るには、やっぱり猫のピート君は外せないでしょう。序盤で活躍したのに中盤で出てこなかったのでさびしかったですねー。というかピート君、強すぎだろ…。人間二人と戦って勝つんだもんよ…。そして猫にはやっぱり何か人を特別に惹きつける魔力があるんでしょうか。ピートの去勢に関するやりとりの部分とか、多分主人公は本気で言ってるんだろうなあと思ったので(笑)。
 この作品内の「未来」を自分たちはもう追い越してしまったわけですが、今の現実のほうがある意味よっぽど空想的な世界である気がしないでもないです。浮遊して走る電車とか家政婦ロボットはこっちにはないですけど、インターネットってそういうガジェットよりだいぶカッ飛んだSFチックな世界ですよね。当時から見たら、「事実は小説より奇なり」って思うのだろか。