オリバー・ツイスト

 こないだ観てきました。なかなか面白かったっす。ちなみに原作は未読。
 簡単にあらすじを。孤児のオリバー君は孤児院で食事中「もっとお粥をくんろ」と言ったためにそこを追い出され、引き取られた先の家でもムカつくガキとおばはんにいじめられる。そこを逃げ出して徒歩でロンドンへ向かい、飢え死に寸前でぶっ倒れていたところをスリの少年ドジャーに助けられ、フェイギンという怪しい爺さんが中心のスリ一味に紹介される…という具合。その後も色々あるんですけどまあそれは実際に観るなり読むなりして確かめる方が楽しいでしょう。とかいいつつ、下で思いっ切り内容に触れますがご了承ください。
 友達も書いていたのだが、この作品中の善悪について。この作品には善と悪というはっきりした二項対立があります。善はオリバーを引き取ろうとする金持ちのブラウンロー氏、悪は凶暴な荒くれ者(この言葉初めて使ったよ)のビルなど。でも、フェイギンたちスリ一味は、善と悪の中間にある存在として描かれてます。実際やっているのは犯罪行為だし、ブラウンローの元にいたオリバーを誘拐してまたスリの道へ引き戻そうとするのは(この作品の基準から言うと)悪といえるのだけど、オリバーを飢え死にから救って仲間に受け入れ、初めての居場所を作ってやったのは間違いなく彼らだし、それにドジャーを始めとする仲間の少年たちはハックルベリー・フィンなどのナイスな悪ガキに通じる人間的魅力があるし。それにある意味何者でもなかったオリバーを、初めて人との相互的な関係に組み入れて、俗に言うアイデンティティっちゅうやつを与えたともいえる分、彼らはやっぱり善ともいえるわけで。原作ではどのように描かれているかは知らないけれども、少なくともこの映画ではこういう二面性を持っているフェイギンたちが一番魅力的に見えました。特にフェイギンは、中でも善悪の間を揺れ動く振れ幅が激しいので、「ヴェニスの商人」のシャイロックみたいな面白さがあります。ベン・キングスレーの好演の賜物でしょうか。
 んで主人公のオリバー君ですが、アイフルのCMのチワワのごとく目を潤ませふるふるしているばかりで、自分では大して何もしていないのに周りが彼をダシに色々動きまくるという具合(笑)。物語を動かす中心なのは間違いないんだけど、それは主人公としてというよりは、サスペンス映画に出てくる時価数億円のダイヤみたいに、みんなが奪い合うモノといったポジションかと。んじゃあそのオリバー君、何でみんなが奪い合うよーな魅力がおありなの、という話になると、ひょっとしたら顔がかわいいからなんじゃないかという勘ぐりをしたくなります(笑)。フェイギンたちやビルからすると、オリバーが警察にタレこんだら彼らは絞首刑になる、という理由はあるわけだけど、ブラウンローさんに関しては、「なにやら彼は善良で純粋な少年っぽい」という印象しかないわけで。さあこの爺さんの本心やいかに。もしこの話の後日談が作品になったとしたら、書き手によってはめくるめく背徳の世界が薔薇のように広がりまくるお話になるかもしれません、とか考えてしまうのは、授業で前にやったクィア批評のせいだろうか(笑)。
 まあ冗談はさておき、オリバー君は無条件で純粋なキャラという設定になっているわけですが(ナンシーが彼を気に入るのもそのせいだったっけね)、そんな彼はフェイギンとのああいうやり取りを最後に経験するわけです。おそらく棘のように彼の心に刺さったまま抜けないあの出来事を彼はぬくぬくとした環境の中で抱え続けていくことになると考えると、この話は確かにオリバー君ビルドゥングスロマンなのかもしれないなあと思いました。彼が完全な純粋さから転落するという形で成長する、というね。

オリバー・ツイスト〈上〉 (新潮文庫)

オリバー・ツイスト〈上〉 (新潮文庫)