最近は

 こんなのをさらっと読んでいました。

海の仙人 (新潮文庫)

海の仙人 (新潮文庫)

 なんというか、絲山秋子は現在日本最強の作家の一人なんじゃないかと思います。そんくらいグッときてしまった。宝くじが当たったのを機に隠遁生活を送る男・河野のもとになぜか「ファンタジー」という名の全く役に立たない神様が現れて…というお話なんだけども、彼女の作品についてはあらすじの説明はあまり意味をなさないと思うので、是非手にとって読んでみてください。150ページくらいだからすぐ読めるし、文庫も出たし(ちうか俺も文庫で読みました)。
 絲山作品を読んでも、何故だかいつも分析できないし読後の感想も全然まとめられないんで、つるつるしてうまく持てない球体をもてあそんでるような気分になるんだけれども、それは彼女の作品が平板と感じているのではなく、ものすごく強靭なエイトビートを聴いているような感覚と似ているんじゃないかという気がするんです。例えば、手数が多いわけでもなく、派手なフィルインもない、何の変哲もないリズムパターンなんだけれども、その最もシンプルなビートの中にグルーヴの大きな奔流を感じさせられることがあるかと。切り詰められたそれぞれの音の中に、筋肉の間を流れるエネルギーのようなものが凝縮されているようなリズム。彼女の言葉からは、何だかそれに似た「文圧」とでもいうような力が感じられてなりません。まあこの作品はちょっとメロドラマティックな展開もあるけど、そこに嫌味や軽薄さは感じられないしね。

薬指の標本 (新潮文庫)

薬指の標本 (新潮文庫)

 小川洋子は読んでいるようで読んでいなかったけれども、彼女の作品は、数作読んだだけでもそれぞれの作品世界に通底して流れる「匂い」を濃厚に感じ取れるように思います。それは唯一無二のカラーでもあるだろうし、時にはマンネリ化する要因にもなるのだろうけど。とりあえず、個人的には、良くも悪くも「いかにも」な作品だったなあと思います。彼女の作品世界は、通常の時間軸と切り離されたような、停滞した空間が設定されていることが多いと思うんだけれども、その入れ物である彼女の作品自体も、標本という存在となることを望んでいるんでしょう…かね?色々と分析しやすい小説だと思うけど、とりあえず時間がないので一旦保留で。


 そして今はこれを読んでいます。

恐怖の兜 (新・世界の神話)

恐怖の兜 (新・世界の神話)

 まだ半分くらいだが、めちゃめちゃ面白い。かなり大雑把に言うと、それぞれ謎の個室に閉じ込められた男女8人がチャットで会話しつつ脱出の糸口を探す、というものなんだけど、そのチャットで物語が構成されてるんです。その奇をてらって裏目に出がちな形式の割に、方々に散りばめられたギリシャ神話などのモチーフ、異様なまでに思弁的な背景設定などが渾然一体となって、妙な崇高さすら感じる不条理劇となっています。こんな作品がロシアから出ているのか…と驚きました。ペレーヴィンは前から気になってた作家だったんだけど、こりゃ他のも読まなきゃ。ディッシュの「リスの檻」だとか、カフカ作品だとかが好きな人は是非。
 この作品は「新・世界の神話」シリーズの中の一冊。このプロジェクトは、横目で見つつスルーしてたけど、侮れないかも。他のラインナップはマーガレット・アトウッド、ジャネット・ウィンターソンとか。これが国書刊行会でなく角川書店から出ているというのがちょっと驚きだけどね(笑)。