横浜トリエンナーレ2005

 ようやく書きますよ、トリエンナーレレポ。もう1週間以上経ったけど…。この展示会のテーマは「日常からの跳躍」。果たしてそれが成功していたかは、以下に。クソ長いので覚悟しましょう。
 行ったのは9日の日曜日。その時はレポ締め切り直前だったのだが、前々から入っていた予定をドタキャンするのはいかんし自業自得なので、こうなったらこの日は遊びまくってやると開き直って横浜へ向かう。今までそちらの方面にはほとんど足を運んだ事がなく、自分の中ではもはやフロンティアであったのだが、実際に渋谷から東横線特急に乗って向かってみると、そのアクセスのよさに驚く。渋谷から30分で行けるのか…。東京〜横浜間が異様に長かった、むしろ鉄のカーテンさえそびえていたかもしれない脳内日本地図がキレイに更新されたよ。
 元町中華街駅で下車。同行者の聞き上手な人と合流する。まず彼の意向によりバーニーズの横浜店へ。デカイね。高いね。ニットに数万かけるんだったら一万くらいのやつを買って残りのお金で本でも買う、という勘定をしてしまう時点でちょっとご縁がない感じである。
 そして会場である山下公園へ。マリンタワーがただの鉄塔であることに驚く。もっと巨大で全貌を視界に収められないくらいのものを想像していたら意外と小ぢんまりしているのね。んで世界各国の屋台が並ぶ入り口付近へ。少し奥へ行ったらもう海が見えた。この日はどんよりと曇っていて気温も低く、視界一面灰色だったのだけど、この寂寥とした感じが逆に良いっすね。燦々と晴れてたらそれはそれで気持ちいいのだけど、これはこれで別の味わいがある。タヒチ80かベン・ワットかの違い、みたいな(笑)。
 そして会場入り。チケットは駅で買ってあったのですぐに入れた。トリエンナーレの様子を映した写真にはよく出てくるたくさんの旗が並んだ作品は、入り口から見てみると思ったほどの迫力はなくて多少寂しげ。徒歩で会場に向かおうかと思ったが、どこから行けばいいのかよくわからんのでバスに乗り込む。会場は港の倉庫なので、そこまでの道も思いっきり倉庫街。普通にトラックとか並んでて、美術展を観に行くまでの道とは思えん。むしろこの光景も何かのインスタレーションかとか考えてしまう(笑)。
 直接倉庫内に乗り入れる形でバスが会場に到着。や、当たり前だけどマジで倉庫ね。どっか閉塞的な雰囲気が、逆に別世界に来たような気分を盛り上げる。そしてまず目に入ったのが鉄パイプで作られた巨大な階段。池永慶一という人の作品かな。片方から登ってもう片方から下る、というだけのものなのだけど、これがトリエンナーレに入るための階段、という気がした。降りて地面に足を着け、今回のトリエンナーレが開幕する。
 会場全体は主に6つの倉庫で構成されてて、その間や周りを取り囲む港の一部は作品が置かれる他にちょっと物を食える屋台が出てたりする。とりあえず、入ったところから3つ連なっている倉庫を見て回ることに。最初の階段のある倉庫をばーっと見て周り、次の部屋へ。ここはソイ・プロジェクトの展示が多かった。これはタイかどこかを拠点としたプロジェクトだった気がする。前に菊地成孔がフトンとかとライブやったのもこのプロジェクトの関連だったかなあ。ここではウィスット・ポンニミットの展示が面白かった。真っ黒の巨大な箱に付いている扉を開けると、電話ボックスほどのスペースに入り込む。全面真っ黒なその部屋には一つ扉があり、そこにはウィスットさんの漫画がひとコマ貼り付いている。んでドアを開け次の部屋に行くと、また同じような真っ暗なスペースにドア一つ、そしてさっきの漫画の続きが一つ。進んでいくと途中で扉が二つに分岐したりもして、何となく昔やったゲームブックを思い出す。こういう迷路に入るのはとても好き。ウィスットさんの漫画もかわいかった。なんか彼IKKIかなんかで新連載やるんだっけね。ちょっとチェックしてみたい。
 その倉庫には、小さな小屋の中にモニターを設置し、そこにある女性が色んなシチュエーションで色んな行動を取る様子を映した映像を流すという作品もあったな。多分松井智恵って人の作品。道を歩きながらどんどん服を脱いでいったり、螺旋階段を仰向けにはいつくばってずるずる下っていったり。行動と状況の不一致を、外から区切られた小屋の中で観るっていう二重の異化作用のおかげか妙に印象に残った。
 次の倉庫ではアジア、特に中国出身のアーティストの作品が多く展示されていた。ここを観ていて思ったのは、非常に「中国っぽい」作品が多いこと。それは毛沢東のモチーフであったり、伝統的な絵画や芸能を描いたものだったりする。各地の中華街の入り口の写真を並べる作品もあったな。ここには、外から中国を見た際に囚われがちなステレオタイプがそのまま表されている。それは当然観る人の意識を啓発する目的もあると思う。けど、同時に、「俺らは中国人だ」と主張するパワーも強烈に感じた。これは中国が急速な経済発展を遂げていることとも無関係じゃないと思う。
 そこに奈良美智grafの作品もあった。これは一つの家を作っちゃったっていうもので、その中を歩き回る事が出来る。中には奈良氏の絵が展示されてあったりも。彼の絵は今までそこまで好きではなかったけど、実際に見てみたらなんか急に好きになってしまった(笑)。かわゆい。んで中を歩いていると途中でそのまま外に張り出したベランダのような所へ行き着いた。古い木で出来た壁に空いた隙間から、灰色の海が見える。このとき、曇りの日に来て良かったと改めて感じた。
 そしてそのまま波止場にて一服。何というかな、漠然と海、その向こうに見える街並みを眺めていると、普段の生活の中で自分が使っている、視野のレンジが大きく変わる。いつもは、何十メートルくらいまで先が見えれば問題ないし、それ以上の視野を必要とする機会がほとんどない。でも、久々に海を見たりすると、一気に何キロ分も視野のレンジが拡大する。違う眼鏡をかけたような不思議な感覚を覚えた。あとカモメってやっぱり港では普通に飛んでるんだね…(笑)。飛んでるだけなのになんか感心しちゃったよ。
 たこ焼きを食って軽く腹ごしらえをした後、今までとは中庭を挟んで逆側にある、4つ目の倉庫へ。入ってみると何故か巨大な箱に隣接して卓球台がある。係員の人曰く、その箱の上からたまにピンポン球が落ちてくるから、それを使って卓球をするというインスタレーションだそうな。その箱にはモニターが埋め込まれてて、時折その場で卓球をやっている様子が映ったりもするようで。こんなものがあると知っちゃあこの大人気ない二人組が黙っているはずはない。瞬時にトリエンナーレがガチ卓球試合と化す。お互いカーブかけまくったりの姑息な手管を駆使した激戦の末、何とか勝利を収めた。聞き上手君は結構本気で悔しがっていた(笑)。
 ジョジョのスタンドみたいな大きな人形に囲まれた部屋に行列が出来ているので、何事かと並んでみる。中に入ってみると、何千羽もの金の折鶴で出来た細長い円錐が暗い中に吊るされている。その中に入る仕組みらしい。で入ってみると、中全体が照明で照らされ、しかも足元は鏡張りになっているため、金色の万華鏡に入ったようなサイケッぷりだった。後ろが詰まってたから長居は出来なかったが、軽くトリップ。
 次の倉庫に入ってみると、照明が急に暗くなる。光を色んな形で使った作品が多く展示されてるみたい。なんか中央に巨大なお化け屋敷的風情が漂う作品があり、結構人が並んでいる。面白そうなので並び、待っている間大学生的単語を使ったしりとりというまさに暇な時にしかやらない暇つぶしを行う。その並んでいるそばにも別の作品があった。座る部分が様々な色の光る板で彩られた大きなブランコ。暗い中にステンドグラスのような色彩が揺れる様は、観ていてかなりキレイだった。乗りたかったけどお子様で混んでいたので無理でした。
 しばらく後にようやく巨大な箱の内部に潜入成功。また迷路系かと思ってたら、動物園のように上から柵越しに下の作品を見るというものだった。下には色んなものが置いてあるのだが暗くてよく見えない。その中を、音楽に合わせてライトが照らしていくというものだった。それなりにおもろかったけどメッセージとかはさっぱりわからず。
 んで最後の部屋へ。ここには巨大サッカーゲームが。たまになんかの店の軒先とか、ホテルとか何かのロビーにあるような、台から出てる棒を引いたり回したりして列に並ぶ人形を動かすサッカー台の巨大バージョン。観客席もちゃんと設置されているので、そこに座ってお子様たちが必死にそれで遊んでいる様をしばらく楽しむ。だんだんみんな上手くなってくるのが面白い。
 まあそんなこんなで、一通りじっくり周ったら3〜4時間かかった。なかなかの長丁場だったな。帰りはバスに乗らず、徒歩で戻る。その戻る道の上には、冒頭に見た旗がずぅーっと並んでトンネルみたいになっており、こうみると非常に壮観だった。なるほど、こういう作品だったのか。そして右には暮れていく日の中に浮かぶビルや観覧車が、海の向こうに見える。何この絶好のロケーション。野郎二人の弥次喜多道中にはもったいないことこの上なかった。
 ちゅうわけで、何だかんだでトリエンナーレ満喫しました。これはアートを使ったテーマパークだね。自ら参加する、っていう作品が多かったし、そういう意味でも「日常からの跳躍」という狙いは結構成功してるんじゃないかと。これはねー、一人で来ない方がいいよ(笑)。絶対複数の方が楽しい。二人がベストであるといえよう。なのでたまには普段行かないようなとこ行こうかーと思っているカプールの皆様にはなかなかオススメできます。中華街も近いことですしね。
 ま、俺らは途中参加の某友人が体調不良のため来られなくなってマジに「ウホッ!男だらけの横浜デート」になっちまいましたけどね!ええ、がっつり中華料理を食い、思い余ってカラオケで小沢ナイトまでやってしまいましたよ。まさに完璧に遊びまくった一日と言える。つうわけでこの辺で横浜レポを終わります。疲れた。