ミヒャエル・ゾーヴァの世界展

 というわけで、こないだの月曜にギリギリ駆け込んだゾーヴァ展の感想。ちなみにこの人はドイツの画家です。
 会場の松屋銀座催物場に着いてびっくり。最終日の昼ではあったけれど、予想を越えてめっちゃめちゃ混んでました。会場の壁をなぞるように絵の前に人の列が出来るのは混んでる展覧会ではよくあることだけど、その列が会場入り口付近まで行列のように出来ている状態は初めて見ましたよ。加えて彼の絵は結構サイズが小さかったり、絵が大きくても描かれているフィギュアが小さかったりするものが多く、正直あまりじっくりと見られませんでした。悲しひ。「アメリ」効果でしょうか(劇中登場するアメリの部屋には、ゾーヴァの作品がいくつか置かれている)。正直そこまで知名度の高い画家さんだとは思っていなかったので、これはちょっと予想外でした。
 んで肝心の絵ですが、やっぱりすごく好きですねー。スープの中に豆粒みたいな豚が入ってたり、兎が鏡の前で人間サイズのトランクスを試着してたり…。実物を見ていただくのが一番早いですけど、シュールさがかわいさ、ユーモアとしっかり結びついている上に、どことなく漂う異様な気配も失っていないのがステキ過ぎます。
 彼の絵の中では動物がかなりの頻度で出てくるんだけど、それが結構こういう印象、シュールなズレを形作る要因である気がします。例えばその擬人化。そうすることでかわいくしたりユーモラスにしたり、というのはよくあるけど、ゾーヴァの絵に出てくる擬人化された動物は、頑張って人間みたいに振舞おうとしているけどやっぱり失敗している感じがするのがいいです。
 あと彼の絵で面白いのは、人物と背景のバランス。人物と背景の比率を考えると、明らかに人物が小さい絵が多い。そして大抵、広い背景の中に描かれる人物の数がすごく少ない。おかげで空間がすごくだだっ広く、そのせいか彼の絵は戯画的なユーモアの中に、妙にがらんとした孤独感がある。影の描写(裏返せば光の描写でもあるが)が多いのもそれに関連していると思います。
 光といえば、一点から照射される光の他にも、朝から夜までの間に見られる微妙な加減の明るさ・暗さを描くのもすごくうまい人だなと。「魔笛」の絵本の挿絵を見ていて強くそれを感じました。昼と夜の丁度間にあるような、暖色と感触の入り混じる空模様・空気の色がどうにも絶妙な配分で描かれてて、心がざわざわします。小さい頃どこかで見たような光。
 そういう人物と背景の描写、その組み合わせがものすごく達者。確固とした世界を持っている画家だと思います。でもその節々に、かつての作品からの影響や、それらに対する愛情も見え隠れするのもよいなあと。例えばベックリーンの絵の翻案があったり、マグリット的な光の描写があったり。ちゃんとそれらを自分の血肉にしている感じ。

ミヒャエル・ゾーヴァの世界

ミヒャエル・ゾーヴァの世界