山口晃展@日本橋三越

 あまり彼の絵をじっくりと観る機会は今までなかったのだが、ほぼ間違いなく好きだろうという確信はあったので(笑)、相変わらずギリギリだが観に行く。会場前で同行者を待っていたら、普通に本人がいてびっくり。文科系ダンディの薫りがプンプン漂う渋い方である。
 今回の展示は大きなものから小さなものまで合計60点ほどが出品されていたのだけど、もうどれもこれもビシバシとツボを突かれて参りましたよ。彼の作品は、年号が3ケタだったあたりから続くような日本画に現代の風俗や都市、機械を混ぜ込んだものが多いのだけど、その細密さ、ユーモア、スケール感、想像力にもうニヤニヤしっぱなし。江戸屋敷機械仕掛けになってるってだけで俺のからくりフェチが刺激されてたまらない(笑)。日本全体がこうなってしまえばいいのにと結構本気で思う。同行者は地図フェチらしく、都市全体のランドスケープを描いた作品でニタニタしていた。かといって決してマニアックな雰囲気ではなく、子供からお年寄りまで受け入れられるようなポピュラリティが強いのがすごいね。だからこそ広告などにも使われうるんだろうけど。そこに、ヘタなかっこつけのアートが辿り着けない強靭さがある。まあこれはとにかく一回自分の眼で観てみてください。
 しっかしこんなに画力のある人だとは知らなかった。あんだけ細かい図をキッチリ描ける時点で充分それは証明されるんだけど、人物を描いたものでもそのうまさが改めてわかる。そこから派生して思うけど、やっぱりすごく漫画的。それは一枚の絵の中にストーリーが感じられるということもあるし、それこそ戯画的な要素、描かれる人物や風景がキャラクター的であることもある。メカニカルな江戸東京、って実際漫画とかゲームとかでなかったっけ?でもこれがアートの範疇にくくれる理由は、時代もあるのだろうけど、それが卓抜した技量に裏打ちされたハイレベルな次元にあるからだと思う。職人芸だねこれはもはや。
 日本画ってのは日本美術の伝統であるはずなんだけど、それがこういう形で現代と混ぜこぜになっていることによって「面白さ」が生まれるっていうところに色んなものが潜んでいそうな気がしてならん。それこそ「日本」ってなんだ、っていうような。

山口晃作品集

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